研究概要 |
本研究では、高血圧・高血圧性腎障害の発症を永続的に予防しうる可能性として、アンジオテンシン拮抗薬一過性投与による高血圧・腎障害の持続抑制効果について、検討を重ねている。高血圧関連モデル動物(SHRSP/Izm)の高血圧発症時の限定期間(critical period)にARBを一過性に投与すると、休薬後も血圧の上昇が抑制され、尿蛋白上昇の抑制、組織学的変化の抑制がみられた。これらのラットにおいて、ARB投与中止後2ヶ月の段階での検討でレニン・アルドステロン共に低値を示していた。すなわち、高血圧発症時期に一致する"critical period"にARBを一過性に投与するとreno-vascular amplifierが抑制され、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系のリセッティングが生じ、後の高血圧や腎障害の発症を抑制できる可能性が考えられた。しかし、この現象がみられる"critical period"がどの時点であるか、未だ明らかにされていない。これは機序を解明する点からも非常に重要な点であり、次にARB一過性投与が、既に確立された高血圧に与える影響について検討した。高血圧自然発症ラット(SHR/Izm)を用い、高血圧発症後の16週齢の段階でのACE阻害薬・ARBの一過性投与(‘一過性パルス療法')により高血圧の退行(regression)が見られるのか評価した。雄SHR/Izmを用い、エナラプリル(30mg/kg/day)またはカンデサルタン(50mg/kg/day)を、16週齢から18週齢まで2週間投与した後休薬した。無処置のSHRでは血圧は3週齢以降次第に増加し、10-12週齢ではほぼプラトー値(220mmHg)に達していた。一方、パルス療法終了時の休薬状態での血圧はいずれも150-170mmHg前後であり、終了後も血圧低値が続き、パルス終了3ヶ月の時点での血圧は、エナラプリル,カンデサルタン投与群共に170-180mmHgといずれも有意(p<0.01)に血圧の改善が続いていた。これより、今まで考えられていた"critical period"を過ぎた16週齢(生後4ヶ月)のSHRへのACE阻害薬・ARBの一過性投与(‘一過性パルス療法')は高血圧の退行(regression)を一部もたらす可能性が示唆された。すなわち、既に高血圧発症が確立した場合でも"ACE阻害薬・ARB一過性パルス療法"により血圧の上昇を一部rescue(治癒)できる可能性が示唆された。
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