本研究では、高血圧・高血圧性腎障害の発症予防として、アンジオテンシン拮抗薬(ARB)一過性投与による高血圧・腎障害の持続抑制効果を検討している。高血圧自然発症ラット(SHR)の高血圧発症時期である3〜10週齢の間ARBを一過性に投与すると、休薬後も血圧の上昇が抑制され、尿蛋白・組織学的変化の抑制がみられた。これらのラットではARB投与中止2ケ月後の検討でレニン・アルドステロン共に低値であり、高血圧発症時期("critical period")のARB 一過性投与は、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系のリセッティングを生じる可能性が考えられた。 次にARB一過性投与が高血圧の退行をもたらすか評価した。SHRの高血圧発症後である16〜18週齢の間ACE阻害薬(エナラプリル30 mg/kg/day)・ARB (カンテサルタン50 mg/kg/day)を一過性投与('一過性パルス療法')した後休薬した。血圧はパルス療法終了3ケ月後でも無処置群と比較して約30-40mmHg低値(p<0.01)を保った。組織学的には、正常血圧ラットWKYに比して無処置のSHRで腎細動脈が著しく肥厚していたが、2週間のARBパルス療法直後では肥厚が著明に退縮し、ほぼWKYと同様であった。カルシウム措抗薬パルス投与ではこの変化は見られなかった。腎臓のマイクロアレイ解析、real-timeRT-PCRでは、ARBパルス療法群で細胞外マトリックス成分や細胞外マトリックス分解系の遺伝子の変動を認めた。これらより、今まで考えられていたcritical period" を過ぎた16週齢のSHRへのACE阻害薬・ARBの一過性投与('一過性パルス療法')は高血圧の退行(regression)をもたらす可能性が示唆され、その機序としてmicrovascular remodeling の関与が考えられた。
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