研究概要 |
循環血中に存在する内因性NO合成酵素酵素阻害物質であるADMAは、NO産生を阻害することにより血管・組織障害を引き起こす。近年、このADMAは慢性腎臓病患者(CKD)血清中に高濃度で存在することが明らかとなり、新しい尿毒症物質として着目されている。申請者らは、腎不全動物モデルにADMAの代謝酵素DDAHを過剩発現させると、ADMAが低下することで、全身、腎局所の血管内皮機能が改善し、高血圧、尿蛋白、腎不全進展を抑制できることを明らかにした(JAm Soc Nephrol18:1525-1533,2007)。これらはCKDで蓄積したADMAが生理活性を持ちうることを示した最初のエビデンスであり、これにより内因性ADMAが病態及びその進展に関与し得ることが初めて明らかとなった。現在、動物実験より得られたこの知見"CKDにおけるADMAの蓄積が心血管合併症、あるいはCKDの進展因子である"という仮説を検証するために、同意が得られた当院入院患者を対象に、血清、尿中ADMAと腎障害、血管機能、合併症、あるいはそれらのサロゲートマーカーとの関連を検討、解析中である。現在約130症例が登録し、血清ADMAがCKDのstageの進行に伴い上昇すること、ADMAがCKD患者の年齢、血圧、動脈硬化の指標である内頚動脈内膜中膜厚(IMT)、心エコ-図におけるLV mass indexと正に相関すること、左室駆出率(EF)と不の相関を認めることを発見し、CKD進展に伴うADMAは蓄積し、そのことがこの病態における高血圧、心肥大、心機能低下に関与する可能性が示唆された。(現在も疫学調査を続行中である。) また、申講者らは、腎不全患者の血清中の終末糖化蛋白(AGE)とADMA間に強い正相関があることを見出し、さらに培養ヒト血管内皮細胞にAGEを添加すると、DDAHの酵素活性が低下し、それに伴いADMAが蓄積してくることを朗らかにした。このAGEによるDDAHの低下は、RAS阻害薬であるテルミサルタンの前処置により抑制されることも観察された。このことから、RAS阻害薬の臓器保護作用の一部にADMA低下作用が関与している可能性が示唆される(Diabetologia.50:Sl7-S18、2007)。この知見も併せて上記の調査で検証中である。
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