筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、系統的な運動ニューロン変性によって進行性の筋力低下と筋萎縮を生じる致死的な神経変性疾患である。予後不良にもかかわらず有効な治療法が確立されていないことから新規治療法開発が希求されている。そのような中で本研究は、将来的な神経再生による治療法開発をにらみ、運動ニューロン変性によって誘導されてくるニューロン新生についてラットの変異SOD1遺伝子導入ALSモデル(ALSラット)を用いて検索した。昨年度の成果をもとに、ALSラット脊髄における新生細胞をBrdUの持続投与によって効率よく標識して免疫組織学的に解析した。同じ週齢の正常同腹仔ラットと比較してALSラット脊髄前角とその周囲白質では、未発症期より有意にグリア系前駆細胞・グリア細胞の新生増殖が認められ、これに伴って再生阻害因子コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの沈着進行がみられた。さらに昨年度より多数試料を対象に共焦点顕微鏡を用いた多重免疫組織化学を行うと、発症後のALSラット脊髄に未分化神経前駆細胞の増殖と未成熟ニューロンのマーカーを発現するニューロンの出現が検出された。元来、成体脊髄は神経再生が起こりにくいとされているが、今後はこのような成体脊髄が本来もつ病態下での内因性神経再生機能を効果的に活性化するとともに再生しやすい環境を整えることで、神経変性疾患における再生誘導戦略を探索していくことが期待される。
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