多発性硬化症は中枢神経系に脱髄病変を生じ、多彩な神経障害を呈するが、症状の再発・寛解を伴いやがては進行する神経難病である。その動物モデルとして実験的自己免疫性脳脊髄炎(以下EAE)が研究され、自己反応性T細胞による自己免疫性病態であることが明らかになっているが、再発・寛解の詳細なメカニズムについては依然として不明である。EAEを誘導する脳炎惹起性ペプチドは動物の種や系統によって決まっており、従来EAEの臨床経過は動物種の系統によって単一であると思われていたが、我々は複数のペプチドが同定されているSJL/Jマウスにおいて、同じ系統であってもそれらペプチド毎に異なるEAEの臨床経過を取ることを明らかにした。本来SJL/JマウスのEAEではPLP139-151による感作が一般的であり、再発・寛解型のモデルとして研究されているが、それとオーバーラップするPLP136-150で感作すると、ほぼ再発しない単相性寛解型の経過をとり、さらにその後どの脳炎惹起性ペプチドで感作しても、PLP139-151の感作による場合と異なり、EAEが再誘導できなくなるという特異な現象を認める。その理由として、PLP136-150感作EAEではそのリンパ節に誘導型のCD4^+CD25^+制御性T細胞(adaptive regulatory T cell)が寛解期に誘導されて長期に維持されるが、PLP139-151感作EAEではその誘導が一過性で不充分であること、さらにその制御性T細胞の動態においてFoxp3は必要条件ではあるが充分条件ではなく、CD69とCD103の発現が重要であることを明らかにした。またこの誘導型の制御性T細胞を移入したマウスではEAEが抑制され、その細胞増殖反応も抑制されること、さらにその効果は特にCD69やCD103陽性細胞群において顕著であること、CD4^+CD25^+T細胞群を除去するとPLP136-150感作EAEでもPLP139-151感作EAEと同様に再発寛解型となり再誘導できるようになることを示した。また感作ペプチド特異的寛容誘導の実験により、PLP136-150反応性細胞が制御誘導性でPLP139-151反応性細胞が脳炎惹起性であるのではなく、PLP136-150感作でもPLP139-151感作でも同等のTCRレパトアを持つ脳炎惹起性T細胞が誘導され、交差反応性を示すが、PLP136-150感作ではさらに抑制能誘導性T細胞も誘導されやすいことを明らかにした。
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