アルツハイマー病(AD)に関連する遺伝子の変異をもつ動物モデルを用いて、個体レベルのストレスの辺縁系神経細胞に対する影響を観察し、その脆弱性に関与する分子機構を解析することで、AD発症の促進要因をストレス研究の面から探る。さらに、ストレスにより直接形態的な変化がみられる海馬のみならず、海馬に入力してそのストレスによる影響を修飾するとされている扁桃体についても同時に解析することで、環境応答反応における、海馬と扁桃体のシステムレベルでの相互作用の重要性の解明をめざす。これらの解析から、環境と遺伝子型の相互作用により障害をうける遺伝子の発現や神経回路、機能を同定することで、ADの早期診断薬や症状緩和薬の開発研究につながる新たな情報が得られることを期待している。 本年度の成果 1、慢性ストレスモデルの確立 野生型(WT)マウスを用いて、ストレス状態の指標となる、体重減少、副腎肥大、胃粘膜傷害、血中コルチコステロンレベル上昇を生じさせる、効果的な慢性拘束ストレスモデルを確立した。 2、AD関連変異遺伝子をもつ個体(Tg)のストレス脆弱性検証 WT、Tgの両群において、慢性拘束ストレス暴露により、海馬歯状回において新生細胞数の低下が観察された。一方、分化過程にある未成熟な神経細胞は、Tg個体では、ストレスによりWTと異なる修飾をうけていることが見いだされた。これらの細胞は、ストレス暴露後のTg個体の海馬歯状回において非常に不規則な分布を示し、その様子は老齢げっ歯類において観察されるものと類似していた。近年、慢性ストレスにより海馬の神経細胞新生が抑制されること、海馬歯状回神経細胞が認知機能に関与することが報告されたものの、その詳細な機構は未解明であった。本課題の成果により、ストレスによる神経前駆細胞の分布や分化異常が認知機能障害につながる新たな可能性が示された(論文投稿準備中)。
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