近年、Raptorは、p70S6キナーセに結合しmTORによるリン酸化を導くことが判明し、mTOR-S6K系によるIRS-1のセリンリン酸化に関与している可能性が示された。一方Rictorは、mTORに結合するとAkt/PKBのSer473をリン酸化し、活性化することが報告された。我々は、mTOR/RaptorやmTOR/Rictor複合体の量比がインスリン感受性の調節に関与しているか、また、この複合体は他にどのようなタンパクを含有しているかを明らかにし、インスリン抵抗性改善薬の開発に応用できる知見を得たいと考えている。H18年度は、mTORに結合しない変異型Raptor(Raptor-ΔCT)のアデノウイルスを作成し、KKAyマウスの尾静脈に静注することによってRaptor-ΔCTを過剰発現させ、肝特異的にp70S6Kの活性を抑制させたところ耐糖能の改善を認めた。これはIRS-1への抑制が解除されたことによるものと考えられたが、同時にRaptor-ΔCT群でbasalでのAktリン酸化亢進が認められた。H19年度は、これらの現象を培養細胞を用いて検討した。具体的には、Raptor-ΔCTのアデノウイルスをHepG2細胞に感染させ、インスリンシグナル伝達系やPP2A活性を調べた。Aktの上流シグナルである、IRS-1チロシンリン酸化、PI3K活性は、KKAyマウスの肝と同様、basalで優位差を認めなかった。またAktと同じくAGC kinaseであるPKCλ/ζ、SGKのリン酸化も変化を認めず、PDK1活性も不変である可能性が示唆された。一方、Aktを脱リン酸化するPP2Aは、Raptor-ΔCT群で活性が上昇しており、Aktとの結合も変化しないことから、Aktリン酸化上昇には関与していないと考えられた。現在は、Aktの細胞内局在の変化やmTORC2シグナルについてさらに検討を加えている。
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