研究概要 |
2型糖尿病、IGTやMetabolic Syndromeにおいて認められるインスリン抵抗性・高インスリン血症と喫煙はそれぞれ独立した心血管障害や脳梗塞の危険因子であるが、これらは重複することでその発症の相対危険度が飛躍的に増す。その為インスリンの増殖作用に対するニコチンの影響を分子レベルで明らかにすることは動脈硬化進展についての予防法に対する新たな治療戦略を考える上で必要である。そこで、SDラット由来の血管平滑筋(VSMC)を用いて細胞レベルでのインスリンとニコチンによる増殖シグナル伝達を検討し、ニコチンがインスリンの増殖作用に及ぼす影響とその経路を明らかにした。 RTPCRにより、ラットVSMCにα2-7,α10,β1-3,δ,εのニコチン受容体(nAChR)サブタイプの発現を確認した。 短期間のニコチン刺激、またはインスリン刺激を行うと、p44/42 MAPK, p38 MAPK, STAT3のリン酸化が認められた。ニコチン前処置後にインスリン刺激を行うと、p44/42 MAPKのリン酸化のみに相加的な増強効果が認められた。 また、p44/42 MAPKのリン酸化と細胞増殖(^3H-Thymidine取り込み)はα7 nAChR選択的阻害剤で抑制され、α7 nAChR選択的アゴニズトによりニコチンと同等のp44/42 MAPKのリン酸化が認められた。 またα7 nAChRを介するシグナルはcalmodulin kinase II, Src, Shcを介してp44/42 MAPKのリン酸化を増強したが、その際EGFとPDGFの両受容体との交差活性化は認められなかった。 以上より、喫煙習慣でのニコチン摂取が、インスリン抵抗性状態において動脈硬化を惹起する増殖シグナルの著しい増強を起こす可能性が示唆された。
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