本研究は、内胚葉形成メカニズムに焦点を絞り、内胚葉臓器の中でも膵臓形成メカニズムに着目した。初期背側膵臓形成に関して、現在の報告で最も早い時期でも、10体節期以降の報告しかない(Matsushita 1996)。よって原腸陥入終了後から10体節期までの間、膵臓分化メカニズムは全く明らかでない。本研究は、まずDiI結晶を用いて、膵臓に関する細胞運命予定地図を作成した。stage5結節周辺の内胚葉細胞をマークしたところ、10体節期予定膵臓領域である4-7体節領域に移動してくる場所を特定した。経時的に撮影することで、膵臓前駆細胞の移動経路も特定した。移植実験結果より、予定膵臓領域は、8体節期で自律的にPdx1を発現することができ、6体節期では自律的に発現できない。よって予定膵臓領域は、4体節期から8体節期にかけて可塑性を失うことがわかった。Pdx1を本来発現しない4体節期予定小腸領域内胚葉を、4体節期予定膵臓領域に移植したところ、移植片でPdx1を発現した。同様に8体節期予定膵臓領域に移植しても移植片でPdx1を発現したことから、4から8体節期にかけて予定膵臓領域を裏打ちする中胚葉は、Pdx1誘導能力を持っていることがわかった。4体節期予定胃領域を4体節期予定膵臓領域に移植したところ、移植片でPdx1を発現しなかった。よって4体節期予定胃領域は、Pdx1誘導シグナルに反応することができない。自律的にPdx1を発現できない5体節期予定膵臓領域を、5体節期予定胃領域に移植したところ、移植片でPdx1を発現した。よって5体節期予定胃領域を裏打ちする中胚葉は、Pdx1誘導シグナルを出していることがわかった。以上の移植実験結果より、初期内胚葉での膵臓領域化には、Pdx1誘導シグナルを受ける内胚葉の可塑性が関わっていることを明らかにした。
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