生体の様々な生理機能には日内リズムが存在し、恒常性維持に重要な役割を果たしている。近年、概日リズムの発振機構が分子レベルで解明され、その本体は時計遺伝子群とそれらによって産生される時計タンパク質によるフィードバックループ(時計遺伝子システム)であることが明らかとなった。マウスでは時計遺伝子の改変により2型糖尿病を発症し、逆に2型糖尿病モデルマウスの肝や脂肪組織では時計遺伝子発現リズムが減弱する。したがって、2型糖尿病の病態には時計遺伝子システムの異常が密接に関連するものと考えられる。そこで本研究は、ヒトの末梢血中白血球を用いることにより、(1)肝や脂肪組織と同様に時計遺伝子システム機能を評価することが可能か否か、(2)2型糖尿病によりそのシステムが障害されるか否かを検討した。 非糖尿病者6名(健常志願者4名および非糖尿病患者2名)、2型糖尿病患者8名を対象に、インフォームド・コンセントを取得後、24時間の経時採血(午前9時、午後3時、午後9時、午前3時)を行った。各検体を採取後速やかに白血球の分離・RNA安定化を行い、後日、RNAを抽出し各時計遺伝子のmRNA発現量をreal-time PCR法により測定した。 その結果、時計遺伝子PER1、PER3のmRNA発現は有意な日内変動を示し、BMAL1にもその傾向を認めた。しかしながら、逆位相になるべきPER1とBMAL1の発現リズムが同位相の健常人も存在し、末梢血中白血球の概日リズムは必ずしも同調していないことが明らかとなった。非糖尿病者と糖尿病患者の時計遺伝子発現量を比較した場合には、PER1では午前9時と午後9時、PER3では午後9時と午前3時、BMAL1では午後9時においてそれぞれ糖尿病患者でmRNA量が有意に減少していた。 本研究により、末梢血中白血球を用いて2型糖尿病の時計遺伝子システムへの影響が評価できる可能性が示された。
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