研究概要 |
多くの生理活性ペプチドは細胞表面に存在するGタンパク質共役型受容体(GPCR)を介して情報を伝達する。現在では内因性リガンドが不明なオーファンGPCRが多数報告されており,本研究ではこれらのペプチド性リガンドを同定し,機能解析することにより新たな内分泌調節機構を解明することを目的とした。 下垂体で顕著に発現しているオーファンGPCRをHEK293細胞にて恒常的に発現させ,GPCRのセカンドメッセンジャーである細胞内カルシウムイオン濃度の変化を指標として,内因性リガンドの探索を試みた。この結果,ラット脳から抽出したペプチド画分に特異的な活性を見出し,このリガンド候補を単離・構造解析したところ,Vasoactive intestinal polypeptide(VIP)であった。化学合成したVIPは,コントロールのHEK293細胞には無反応であったが,オーファンGPCRを発現させたHEK293細胞では細胞内カルシウムイ.オン濃度を上昇させた。しかしながら,これらの特異的な反応はCHO細胞を用いた実験系では再現できず,さらには,VIPの受容体は既に同定されていることから,VIPは本研究で用いたオーファンGPCRの内因性リガンドではないという結論に至った。オーファンGPCRをHEK293細胞で発現させることにより,内在するVIP受容体に何らかの影響が生じ,このような反応が認められたと推測された。 また,オーファンGPCRであったFM-4の内因性リガンドとして,我々が2005年に発見したニューロメジンS(NMS)の新たな生理機能解析を試みた。NMSをラット脳室内に投与すると,血漿バソプレシン濃度が上昇し,それに伴い尿量の減少が認められた。NMSは強力な抗利尿作用を有することが示され,体液量調節の新しいメカニズムが示唆された。
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