BCL2転座を契機に発症する悪性リンパ腫の形成過程を理解するために、前がん状態ともいうべきBCL2転座陽性B細胞の性質を明らかにする目的で、Eμ-BCL2/CAG-EGFPダブルトランスジェニックマウスの骨髄リンパ球を野生型同系マウスに移植し、正常個体内におけるBCL2転座陽性B細胞の性状解析を行った。表面形質解析により、BCL2転座陽性B細胞は濾胞B細胞への分化指向性を持ち、辺縁帯B細胞への分化は抑制されることが判明した。また、BCL2転座陽性B細胞は内在性正常B細胞に比しBrdUの取り込みが緩徐で細胞周期の回転は遅いと考えられるにも関わらず、cytogram上blasticな細胞が目立ち、活性化刺激を受けている細胞の割合が高いことが示唆された。これはBCL2転座陽性B細胞の胚中心指向性に伴い2次的に生じる影響と推測された。BCL2転座陽性B細胞は胚中心B細胞に特徴的なBCL6が遺伝子・蛋白とも発現上昇しており、分子レベルでも胚中心B細胞の性質を有することが明らかになった。さらに、BCL2転座陽性B細胞と正常B細胞をin vitroで刺激し形質細胞への分化能を比較したところ、BCL2転座陽性B細胞で終末分化が抑制される結果が得られ、現在その分子機構について解析を進めているところである。これらの結果より、BCL2転座はBリンパ球において単に抗アポトーシス因子として作用するだけではなく、濾胞B細胞への分化指向性をもたらし、独特の性状を持ってプールされた細胞群の中でさらに一定の遺伝子異常が加わるものが生じた場合最終的に胚中心型リンパ腫の発症に至る、という腫瘍形成過程が推測された。
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