研究概要 |
転写因子NF-κBは細胞増殖、分化及びapoptosisに関与する様々な遺伝子の発現を制御していることが知られているが、個体の発生過程における役割については未だ不明な点が多い。本年度はマウス胚性幹細胞(ES細胞)の中胚葉分化におけるNF-κBの機能についてin vitro及びin vivoでの解析を行った。 LIF非存在下にES細胞をOP9ストローマ細胞上で分化誘導した場合、培養4.5日には血球、血管内皮に共通の前駆細胞を含むFlk-1陽性細胞が約30%出現したが、ES細胞にTet-off systemを用いてdominant negativeNF-κB, IκBSRを誘導した場合、活性酸素種(ROS)依存的なapoptosisが誘導され、Flk-1の発現は強く抑制されていた。抗酸化剤処理によりapoptosisを回避した場合においてもFlk-1陽性細胞の出現は認められず、LIF除去によりFlk-1プロモーターがNF-κBにより活性化されていることが明らかとなった。これらの結果、NF-κBはES細胞から中胚葉系細胞べの分化過程においてROSを介したapoptosisを抑制すると同時に、機能分子であるFlk-1の発現を転写レベルで制御していると考えられた。次にテトラプロイド凝集胚法を用いてキメラマウスを作成し、原腸形成期以降にIκBSRを誘導した場合、胎生7.5日胚においてIκBSRを誘導しなかった場合と同様に汎中胚葉マーカーの発現が認められたが、以後の造血及び脈管形成が障害され、胎生11.5日胚では肉眼的に貧血を呈し、PECAM-1により染色される血管網の形成が強く抑制されていた。 以上の結果から、NF-κBはFlk-1の他種々の遺伝子発現を介して中胚葉系細胞のapoptosisや分化を制御することにより、マウス発生過程における造血及び脈管形成に重要な役割を担っていると推測された。
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