本研究では、抗てんかん薬の作用部位に関わる遺伝子、薬物の代謝酵素や輸送担体をコードする遺伝子、肝での解毒作用に関与する遺伝子など各種遺伝子の多型、プロモーター領域CpG配列のメチル化パターン等を解析し、小児てんかん患者における抗てんかん薬に対する薬剤感受性や副作用発現の原因遺伝子および遺伝子型を同定し、遺伝子解析に基づいた抗てんかん薬の適正使用を確立することを目的としている。 平成18年度は、バルプロ酸(VPA)による副作用である高アンモニア血症と、アンモニアの解毒に関与する尿素回路の酵素であるCarbamyl Phosphate synthetase 1(CPS1)の活性に影響を及ぼすとされるCPS1遺伝子型との関連について検討した。 神戸大学医学部附属病院小児科に通院中で、インフォームドコンセントを得たVPA内服中のてんかん患者41名を対象とし、アンモニア最高値・VPA血中濃度・VPA投与量・他の抗てんかん薬併用の有無と、CPS1遺伝子型(C4340A)について解析した。併用薬が2剤以上の例を遺伝子型で分けアンモニア値(μg/dl)を比較すると、C/C群では122.2±32.8に対し、C/AまたはA/A群では235.4±75.7と有意に高値を示した。また、アンモニア値が正常上限の3倍(198μg/dl)以上を示した例の割合を比較したところ、C/C群では30例中0例であったのに対し、C/AまたはA/A群では11例中4例(36%)でありアンモニア高値を示した例が有意に多かった。 以上より、CPS1遺伝子4340位にAアレルを有し、VPAに加え2種類以上の抗てんかん薬を併用している場合に、高アンモニア血症を呈しやすいことが明らかとなった。CPS1遺伝子型(C4340A)は、VPAを投与する患者について高アンモニア血症を起こすかどうかの予測因子となることが示唆された。
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