研究概要 |
多因子遺伝とされる先天異常において、複数の遺伝的因子と環境的因子の相互作用について解析することは、疾患発症機構の解明だけでなく、その予防医学につながる可能性がある。本研究では、先天性心臓流出路異常および頭頚部異常の遺伝的因子と考えられる、分泌タンパクsonic hedgehog (Shh)および転写因子Tbx1と、環境的因子と考えられる母体に投与された薬剤の遺伝的相互作用について、遺伝子改変マウスを用いて検討することを目的とした。 Shh欠損マウス胚において第一咽頭弓が低形成で、上顎と下顎を形成する部分の近位部および正中部の形成がアポトーシスの増加により障害されていることが明らかとなった。また、Shhシグナルの機能の少なくとも一部は、Fgf8およびその下流遺伝子を介することが示唆され、多因子遺伝として頭頚部から心臓流出路の異常を発症する、胎生期の咽頭弓異常が起こる分子機序の一部が解明された。 Shh遺伝子改変マウスとTbxl遺伝子改変マウスを交配したShh/Tbx1両遺伝子改変マウス胚の解析では、表現型の重症化は明らかではなかった。胚発生数が制限され解析数が少なく、さらに検討を要するが、ShhがTbx1の上流で機能し(Yamagishi, et. al. Genes Dev, 2003)、dominantに表現型を左右する可能性が、その理由として推測された。また、Tbx1遺伝子改変妊娠マウス母体に葉酸を投与して、表現型の軽症化が認められるかどうかの検討を試みたが、一定の結論を得るには至らなかった。近年、母体の葉酸摂取により心臓流出路異常が減少する可能性を示唆する報告がなされ、今後この方法が予防法として広く臨床応用されるためにも、本研究のTbx1遺伝子改変マウスなどのモデル動物を用いた基礎的裏付け、分子機構の解明が必要であると考えられる。
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