平成18年度は、対象者(双極性障害患者)のうち55名(約33%)にSCID-IVによる構造化面接を行い、臨床診断(DSM-IV)を確定した。さらに、種々の臨床背景を調査し、気分安定薬や抗うつ薬、その他の治療薬に対する治療反応性も評価した。この結果、本研究の対象者は、(1)一般の報告に比べて双極II型障害および特定不能の双極性障害の割合が高い(約2.1倍)こと、(2)気分安定薬の治療反応性が不良(難治性)である割合が高い(約85%)こと、(3)標準的な薬物療法以外にドパミン受容体アゴニストの使用率が高いこと、が判明した。さらに、ドパミン受容体へ作用する薬剤(ドパミン受容体アゴニストや抗精神病薬)が、抗うつ薬に比べて難治性症例に対しても比較的有効である可能性が示唆された。 以上の結果から、双極性障害の病態生理においてドパミン神経系の関与が推定された。そこで、ドパミン関連遺伝子の遺伝子多型(SNPおよびVNTR)と診断および治療反応性の相関を検討した。対象とした候補遺伝子は、治療薬の作用機序を考慮してドパミンD2受容体遺伝子(DRD2)およびドパミントランスポーター遺伝子(DAT1)、近年ドパミンD2受容体との関連が報告されているPAR-4遺伝子(PAWR)である。なお、PAWRは、気分安定薬(リチウム・バルプロ酸)で発現が増加することも報告されている。このうち、PAWRで双極性障害との有意な相関(p=0.0056)を認めた。治療反応性については、現時点ではサンプル数が少ないものの、ドパミン受容体アゴニストの治療反応性とDRD2に相関傾向(p=0.09)を認めた。
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