研究課題
LIM(PDLIM5)はPKCεとN type Calcium Channelを介在蛋白であり、カルシウムシグナリングに関係している。中間産物であるLIM mRNA発現は、精神障害患者由来の培養Bリンパ芽球および死後脳で変化していることが報告されている。今回、我々は、末梢白血球でのLIM mRNA発現を測定することで、うつ病の生物学的指標になるのではないかと考えて検討した。DSM-IVで大うつ病と診断された患者(男性6人、女性14人)と性年齢のマッチした健常対照者を対象とした。研究対象者には徳島大学で承認されたインフォームドコンセントに基づき同意を得た。患者群では、治療前およびparoxetineにて治療4週後にSIGH-Dスコアによる臨床症状の評価を行い、薬物血中濃度測定と遺伝子発現を測定した。遺伝子関連解析は、大うつ病患者130人と性年齢の一致した健常対象130名で行った。患者群では4週間のparoxetine投与によりSIGH-Dスコアは約50%の改善を示した。患者群の治療前のLIM mRNA量は、健常対照者と比較して、有意に減少していた(P<0.01)。また、患者群では4週間のparoxetine投与によりLIM mRNA量は有意に増加し、ほぼ健常対象群と同程度となった(P<0.05)。LIM mRNA量とparoxetine血中濃度、SIGH-Dスコアに統計学的相関はみられなかった。LIM遺伝子多型関連解析の結果、遺伝子との関連は確認できなかった。大うつ病患者の末梢白血球LIM mRNA量の減少は、大うつ病の病態生理と関連があると考えられ、4週間paroxetine投与によりLIM mRNAが増加することは、慢性投与に対する適応変化と考えられた。今回の結果から、末梢血白血球発現LIM遺伝子量の測定が、うつ病の生物学的指標となることが示唆された。
すべて 2006
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Neuroscience Letters 400
ページ: 203-207