研究概要 |
神経栄養因子は、発達過程および成体での神経細胞の細胞増殖、移動、分化、生存、再生に関与している。そのため、神経成長因子は、精神障害の発症に関与している可能性が注目されている。今回の研究では、うつ病と1)脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor, BDNF)、2)血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor, VEGF)との関連を調べた。BDNFの前駆体タンパク質部位には、機能性多型であるVal66Met多型がある。この多型は、66番目のアミノ酸にvaline型とmethionine型があり、methionine型のBDNF (MetBDNF)では、細胞内輸送が変化し樹状突起の伸展が乏しい。また、MetBDNFでは、短期記憶が低下し海馬が小さいことも示されている。今回の研究では、BDNFVal66Met多型が、うつ病の発症や症状と関連があるかどうかを検討した。その結果、この多型とうつ病の発症には関連がなかったものの、うつ病で見られる精神病症状や自殺企図とBDNFVal66Met多型に関連があることを見出した。また、末梢血白血球での発現変化から中枢神経系での変化が予想されると考え、末梢血白血球の遺伝子中間産物mRNAの量と精神障害について検討している。VEGF遺伝子は末梢血白血球で発現するため、うつ病と健常者で比較検討した。その結果、末梢血白血球VEGFmRNA発現量は、うつ病では健常対照者と比較して高く、また、うつ病症状の改善の程度とVEGFmRNA発現量に負の相関関係が見られた。一方、VEGF遺伝子とうつ病の関連を調べたところ、有意な関連は確認できなかった。以上から、うつ病では末梢血白血球VEGFmRNA発現量は、病態を反映する因子であることが明らかとなった。
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