前年度の研究計画を継続し、SCIDにより診断された社会不安障害(SAD)患者計6名および健常者計9名に対して、functional MRI(fMRI)を施行し症状誘発時の脳機能を検討した。社会不安症状はLSAS(Liebowitz Social AnxietyScale)、うつ症状はHDRS(Hamiton Depfessive Rating Scale)によって評価した。fMRIの症状誘発課題として課題条件では受付や会議などの対面場面を映像呈示し、対照条件では同じ場所で人物の映っていない映像を呈示した。得られた画像を用いてSPM2解析を行い、課題条件時に強い賦活が得られた部位をp<0.001を有意水準として算出した。 SAD患者は男性4名女性2名、平均年齢31.7歳、健常者は男性6名女性3名、平均年齢32.8歳であった。社会不安症状に関して、患者6名のLSASの総得点の平均は81.8点、健常者9名のLSASの平均は12.3点であり、有意に患者の方が高い数値を示した。またHDRS得点は、患者平均12.7点、健常者平均が0.7点であり、患者群では社会不安症状に伴い軽度の抑うつの合併が認められた。患者の症状は、全般型SADが3名、残りの3名は非全般型で、人前での会話、食事などに限定されていた。 画像解析の結果では、前回の結果同様健常群では課題条件時に後頭側頭葉の紡錘状回および上側頭回における賦活がほぼ全例に共通して認められた。一方SAD患者では同領域における賦活の減少および前頭葉領域における賦活量の増加の所見を認めた。 SADに関するこれまでの画像研究は扁桃体の異常を中心に報告されているが、今回の結果から社会状況下におけるヒトの表情認知に関して、SADでは紡錘状回、側頭回、前頭葉領域を含む複数の脳部位における機能異常が存在し、広範な神経ネットワークの障害が生じている可能性が示唆された。
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