近年、治療困難な慢性疼痛に対して、抗うつ薬による疼痛制御の可能性が試みられている。なかでも新世代抗うつ薬セロトニンーノルアドレナリン再取り込み阻害薬(serotonin-norepinephrine reuptake inhibitor: SNRI)が注目されている。研究代表者は、抗うつ薬の疼痛抑制機序の解明を目標に以下の研究を遂行した。 1)ラットの慢性痛モデルとして、坐骨神経を絞扼した末梢神経損傷モデル(chronic constriction injury: CCI)ラットを用い、SNRIであるミルナシプランを持続的皮下投与したところ、数日後から発現する疼痛回避行動閾値の上昇を認めた。ミルナシプランが慢性疼痛に対する遅発性の鎮痛効果を持つ可能性を示唆した。 2)1)に関連した形態学的研究として、1)と同じCCIラットを用い、侵害性機械的刺激に対する脳内調節因子であるc-Fos発現の脳内分布について調べたところ、ミルナシプラン慢性投与群では前部帯状回でのc-Fos発現が減少した。このことは、ミルナシプラン慢性投与による鎮痛効果に前部帯状回が機能的に関与している可能性を示唆した。 3)ラット慢性痛モデルとして、抗腫瘍薬ビンクリスチン投与で誘発される抗癌剤誘発神経障害モデルラットを用いて、腹腔内にミルナシプランや三環系抗うつ薬アミトリプチリンを7日間反復投与したところ、疼痛回避行動閾値の上昇を認めず、鎮痛効果は確認されなかった。
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