本研究はparoxetine(PAX)のうつ病に対する治療効果のゲノム薬理学的研究である。本研究ではpolymerase chain reaction法によって薬物代謝傍素であるチトクロームP450 (CYP) 2D6の変異アレル(^*1、^*2、^*5、^*10)、PAXの薬理作用部位であるセロトニントランスポーターに関連するSerotonin transporter promoter region(5-HTTLPR)のL型、S型およびセロトニン5-HT2A受容体遺伝子の-1438A>G多型を同定し、PAXの臨床効果を予測できるか否かを検討した。 対象は日本人うつ病患者38名で、年齢は47.6±15.8(平均±SD)、体重は53.8±10.6kg、男性16名、女性22名であった。初診時ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)は26.1±5.1(平均±SD)であった。初診時、PAX20mg以下の用量で治療を開始し、以降は2、4、8週間後に症状評価を行い、症状改善が乏しい場合は、PAXを2週間毎に10mg増量し最大40mgまで増量した。38名中、8週間の治療終了例が33名で、最終寛解(HAM-D<7)率は54.5%、平均寛解週数は5.3週、寛解例と非寛解例における、年齢、初診時HAM-Dのいずれも両群間に有意差はなかった。2、4、8週間後におけるHAM-D改善率を5-HTTLPRのS/S型群、S/L型またはL/L型群で、また、CYP2D6の活性低下が生じる遺伝子変異である^*5または^*10アレルを持たない群、持つ群で比較したところ有意差を認めなかった。5-HT2A受容体遺伝子の-1438A>G多型のAアレルを持つ群と持だない群で比較したところ、治療開始4週目(54.4±19.2% vs. 73.1±15.2%)においてAアレルを持つ群では持たない群より改善率が有意に低かった(P=0.03)。
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