放射性標識抗腫瘍IgG抗体に細胞膜透過性ペプチド(CPP)を導入すれば、効率よく放射性核種を腫瘍細胞の細胞核に送達でき、オージェ電子による微小転移巣の放射免疫療法を実現できる可能性があると考えられる。しかし、CPP結合抗体の体内動態の詳細は明らかにされていない。そこで本研究では、抗体一分子に対するCPPの結合数に着目しながら、抗体-CPP結合体の挙動を検討した。なお、CPPには、8個のD-arginineが直鎖状に結合したペプチド(R8)を選択した。 まず、前年度の検討で、高い非特異的集積を示すことが確認された肝臓について、細胞内分布を検討した。オートラジオグラフィーを用いた検討よって明らかにすることはできなかったが、ホモジネートを作製し、細胞分画した結果、抗体一分子に対し、平均結合数として3.4分子のR8が結合すると、核への移行が促進されてしまう可能性が示された。 次に、抗原発現細胞との結合性についてin vitroで検討したところ、平均結合数として0.92分子以上のR8の結合により特異的結合が長時間維持されること、また、3.47分子程度のR8を結合させても非特異的結合はほとんど増加しないことが示された。 さらに、担癌マウスでの体内動態を検討したところ、R8が1または2分子結合したものでは、肝臓への非特異的集積が増加することなく、腫瘍への集積が増加することが示された。 以上、細胞毒性についての検討は実行できなかったが、一分子あたり1あるいは2分子のR8を結合させたIgG抗体が、好ましい体内動態を示すことを明らかにできた。今後さらに検討を加えることにより、新しい放射免疫療法の実現に近づけるものと考える。
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