触診は皮下組織の硬さなどを調べるために古くから行われている診断手法である。癌などの病変があると触診において硬さなどに変化が生じるのは良く知られている。しかし触診や超音波によるダイナミック検査は、術者の経験によるところが大きく、定量的な客観的診断を確定することは容易ではない。近年MRIのシーケンスで臓器の硬さが観察可能なMRエラストグラフィという手法が考案された。この手法は組織に一定の振動を与えながら撮像を行うものである。このMRエラストグラフィでは手術で必要な3次元的な弾性率の測定が可能である。本研究では、最近開発されつつあるMRエラストグラフィをさらに改良し、臨床に応用して腫瘍の診断精度を向上させることを目的とした。今年度はまずMRエラストグラフィの改良を試みた。本大学工学部にてMRエラストグラフィを開発している研究者と共同で、MRI用に振動発生装置の改良をまず試みた。しかし、今年度中には期待した様なプログラムを開発することが出来なかった。その最大の原因は振動発生装置からの電磁波がアーチファクトを形成することであった。次年度以降はそれを解決するために圧縮空気を使用した振動装置の開発に取り組む予定である。撮像はエコープラナー法を考えており、それは拡散強調画像などの撮影に成功した。拡散強調画像併用による悪性腫瘍の分析では心拍や呼吸運動のような振動がある場合の拡散係数に再現性があまり見られないことを確認し、雑誌に報告した。また乳腺でのMRI撮影では、造影効果が抗がん剤治療の反応予測に役立つことを学術雑誌に報告した。来年度は振動発生装置の改良を進め、20例程度においてMRエラストグラフィを乳腺腫瘤にたいして行う予定である。そして乳腺腫瘤の良悪性の鑑別における有用性の検討を開始する。
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