研究概要 |
本研究では,磁気共鳴イメージング(magnetic resonance imaging:MRI)装置より非侵襲的に得られる拡散強調画像(diffusion weighted imaging)を用い,生体組織の微視的構造および細胞膜機能と拡散MRI信号との関係を明らかすることを目的とし,実際に健常ラットの脳細胞膜透過率の評価を行った. 過去の拡散MRIの研究では,主に生体内水分子の実効的な拡散係数の計測に焦点が向けられ,細胞膜透過率や微小構造がどのように拡散MRI信号へ影響を及ぼすかについては十分に明らかにされていない.細胞膜透過率および微小構造による拡散MRI信号への寄与を,定式化もしくは数値解析により予測することが可能となれば,細胞膜透過率や細胞の形状などの未知のパラメータが評価可能と期待できる.それで我々は,有限差分法を用いた数値解析により,生体内水分子の細胞膜透過率や細胞内拡散係数が拡散MRIの信号にどのように影響するのかを明らかにするとともに,高い解析精度を得るための条件を明らかにした.さらに,細胞膜透過率が未知の試料について,拡散MRI測定結果と数値解析の比較をもとに,膜透過率を推定する手法を提案し,培養した白血球を用いてその手法の有効性を示した.続いて,4.7TMRIシステムを用いて健常ラットの脳の拡散MRI信号を収集し,収集された実験値と数値解析結果とを比較し,健常ラットの脳細胞膜の透過率を推定した. 本研究では,生体組織中の細胞膜透過率を非侵襲的に評価しているため,試料作成および測定環境に起因する諸問題は生じにくいという利点があった.本法の細胞膜機能評価法は今までにない評価法であり,現在のCTやMRIでは抽出なし得なかった生体内水分子の細胞膜透過率が計測可能であり,本法の有用性は高いと考えた.
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