ホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy: BNCT)は、熱中性子とがん細胞に取り込まれたホウ素化合物との核反応によって発生するα線によって、選択的にがん細胞を破壊するという原理に基づくがん冶療法である。近年、がん細胞に選択的に取り込まれるホウ素化合物であるボロノフェニルアラニン(p-boronophenylalaine: BPA)の開発によってこの治療法の有効性が高まり、日本においては、悪性脳腫瘍に対する細胞選択的次世代粒子線治療として期待されている。しかし、この治療におけるα線線量(BPAのがん細胞への集積量)を測定する手法はいまだ確立していない。そこで本研究では、申請者が経験・熟知している磁気共鳴スペクトロスコピー(magnetic resonance spectroscopy:MRS)を用いて、BPAのがん細胞への集積量を"低コストで・正確に・非侵襲的に"測定する手法の開発を目指し、その基礎的研究を行った。 本年度は、まずMR装置に適応した材質(非磁性体)でファントムを作成した。さらに、作成したファントムを用いて以下2つの成果を得た。 (1)BPAのMRSを取得:これまでに、BPAのMRSの取得に成功したという報告はない。しかし、本研究では、BPAのMRSを取得し、そのピークを同定することに成功した。このことは、"BPAのがん細胞への集積量をMRSで測定する"という本研究の目的を達成するうえでの第一ステップとなる。 (2)Lactateの定量化:Lactateを使用してその定量に関する検討を行い、1mMという非常に低濃度の定量に成功した。BPAとLactateは、磁気共鳴現象の原理からJ-couplingという同様の特性を持ち、MRSを取得するうえでは類似の挙動を示す。よって、lactateの定量化の成功は、BPAの定量化への成功につながると考える。
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