中性子捕捉療法は、「^<10>B(ホウ素)+n(中性子)→^7Li(リチウム)+α線」の反応によって放出されるα線により、がん細胞を破壊することを目的とした粒子線治療である。このα線の飛程は5〜10μm程度と細胞の直径にほぼ等しく、ホウ素の入っていない細胞はα線のダメージを受けないため、細胞レベルの選択的放射線治療が可能となる。したがって、"がん細胞に取り込まれ、正常細胞には取り込まれない"好都合なホウ素化合物が必要になるが、そのような化合物として、ボロノフェニルアラニン(p-boronophenylalaine : BPA)が使用されている。しかし、この治療におけるα線線量(BPAのがん細胞への集積量)を測定する手法はいまだ確立していない。そこで本研究では、生体内の代謝物質を非侵襲的に測定できるという特徴をもつ磁気共鳴スベクトロスコピー(magnetic resonance spectroscopy : MRS)を用いて、BPAのがん細胞への集積量を定量化する手法の開発を目指し、2年間に渡り基礎的研究を行ってきた。昨年度はBPAのMRS取得に成功し、さらには、磁気共鳴現象の原理からJ-couplingという同様の特性を持ち、MRSを取得するうえではBPAと類似の挙動を示すlactateの定量化にも成功した。今年度はBPAの定量化を試みた。結果、濃度が5mMのBPAを定量することに成功した。臨床応用を想定した場合、2mM程度の定量が必要となる。しかし、本研究で使用した臨床普及型の磁気共鳴装置では磁場強度(1.5 Tesla)が低いという問題があり、2mMの定量は困難であると結論づけられた。この問題については、現在、臨床普及型の高磁場磁気共鳴装置の開発が進んでおり、今後、高磁場下で本手法を用いることにより解決でき、臨床で必要とされる低濃度のBPAを定量化できる可能性は高い。よって、本研究で確立した「MRSの手法を用いたBPAの定量化手法」は、"低コスI卜で・正確に・非侵襲的に"測定する手法として有用であり、その臨床的意義は高い。
|