研究概要 |
凝血剤として知られるトロンビンには、血管内皮細胞同士の結合タンパクである血管内皮カドヘリン(VE-Cadherin)を抑制する事によって内皮細胞間のタイトジャンクションを急速に15〜20nm開大させ、血管透過性を著しく亢進させる作用がある事が注目されはじめた。本提案では、経カテーテル的な肝動注化学塞栓療法に使用する薬剤としてトロンビンと抗腫瘍薬の混合物を使用する。血管透過性亢進作用による抗腫瘍薬の高濃度暴露による濃度依存性効果増強と、自己凝血塊に含有された抗腫瘍薬の徐放効果による暴露時間延長による時間依存性効果増強を肝動脈塞栓術に応用する 平成20年度には、家兎の下腿部軟部腫瘍に対して、シスプラチン-リピオドールエマルジョンおよびトロンビン-シスプラチン-リピオドールエマルジョンの投与を行った。すなわち、家兎右大腿部にVX2腫瘍を移植し、2週間後に数cm大の腫瘍が発育していることを確認する。家兎左大腿動脈を外科的に露出させ、マイクロカテーテルを左大腿動脈から右外腸骨動脈に挿入する。右外腸骨動脈からの腫瘍への血流を確認した後、シスプラチン-リピオドールエマルジョンまたはトロンビン-シスプラチン-リピオドールエマルジョンの投与を行った。投与量としてシスプラチンは1mg/kg、リピオドールは0,1ml/kg、トロンビンは100u/kgの投与を行った。投与5分後および投与10分後の血清中シスプラチン濃度、および投与60分後の腫瘍組織内シスプラチン濃度を測定した。 トロンビンを投与した群において、血清中へのシスプラチンの流出が抑制され、また、組織内への高濃度のシスプラチンの残留傾向を認めた。 現在、実験結果についてその詳細取りまとめを行っている。
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