一型糖尿病の新しい根治療法として2000年にエドモントンプロトコールが登場して以来、膵島移植は世界中で大きな社会的関心を集め、まさに理想的治療法として確立されようとしている。膵島移植は多くの利点を備えているものの、残された最大の課題は移植後早期の非特異的炎症反応に基づくグラフト機能不全により一人の患者の治癒に複数ドナーを要する事である。我々はこれまでに膵島移植特有な早期グラフト障害の機序を明確に解明し、その治療法を考案する上で有用なモデルの確立に成功してきた。更に近年、膵島移植後のグラフト機能不全が膵島分離施行以前の膵組織に発現されているTissue Factor(TF)に強く依存しているという驚くべき興味深い知見を得る事ができ、その成果を国際移植学会にて報告済みである。この事実は膵島移植後のグラフト機能が、移植された膵島の量よりもむしろ分離以前の‘膵組織の質'に依存しているという事を示唆している。これはこれまでの常識である、膵島の量が予後を最も左右するという考えを大きく覆すものであり、臓器の摘出方法・搬送方法を含めたあらゆる操作過程が‘膵島の質'に大きく影響を及ぼしているという事を如実に示している。そこで本研究においては、まずこれまで存在しなかった実験動物用のTFアッセイツールを作製し、様々な臓器摘出操作行程のどの段階においてTFの発現がより誘導されるかを検討した。本研究の中でウェスタンブロッティング、免疫組織化学染色、リアルタイムPCRを施行する事により、膵組織のTF発現は既に脳死発生段階で強く誘導される事が判明した。したがって今後膵島移植の成績を更に向上させていくには、この脳死によって誘導されたTFの効果的な制御が鍵になると思われ、現在そのストラテジー確立へ向け精力的に研究を継続中である。本研究成果は第34回膵膵島移植研究会にて報告済みである。
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