膵島移植が抱える最大の課題は、移植後早期の非特異的炎症反応に基づくグラフト機能不全により一人の患者の治癒に複数ドナーを要する事である。我々はこれまでに膵島移植特有な早期グラフト障害の機序を明確に解明し、その治療法を考案する上で有用なモデルの確立に成功してきた。更に近年、膵島移植後のグラフト機能不全が膵島分離施行以前の膵組織に発現されているTissue Factor (TF)に強く依存しているという驚くべき興味深い知見を得る事ができた。この事実は膵島移植後のグラフト機能が、移植された膵島の量よりもむしろ分離以前の‘膵組織の質'に依存しているという事を示唆している。そこで本研究においては、昨年度中にこれまで存在しなかった実験動物用のTFアッセイツールを作製し、研究の基盤を構築した。今年度は、そのツールに加えウェスタンブロッティング、免疫組織化学染色法、リアルタイムPCRを施行する事により、脳死が分離膵島のTF発現におけるイニシエーターの役割を果たしていることをつきとめた。大変興味深いことに、脳死単独では膵島分離直前の膵組織のTF発現量は増加しないものの、ある種の温阻血障害と考えることのできる膵島分離作業を加えることにより、分離された膵島は脳死群においてのみTFの発現増強が確認された。しかし、TFの発現増強を認めたにもかかわらず膵島のバイアビリティーの低下は極軽度であったことから、脳死ストレスにより膵島はまず炎症起因性メディエーターの放出を促されることが本研究により解明された。したがって今後膵島移植の成績をさらに向上させていくためには、この脳死によって誘導されたTFの効果的な制御が鍵になると思われ、現在そのストラテジー確立へ向け研究を継続中である。本研究成果は第22回国際移植学会にて報告予定である。
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