PTDの特徴として、操作が目的の蛋白やpeptideを添加するのみで簡単なこと、導入時間が短いこと、様々な生物活性物質を導入できること、などがあげられる。また、ある種の蛋白導入は低温(4℃)においても可能であることが分かってきた。この特徴を利用した移植臓器に対する蛋白質導入は、exvivoでの前処置であるためレシピエントへの影響がなく、理想的な方法と思われる。移植臓器へのPTDによる蛋白質導入はこれまでに報告がなく、本研究がはじめての試みとなった。 虚血再灌流障害は、虚血時の細胞内低酸素状態に再潅流時の大量の酸素流入による活性酸素産生が引き金となって生じる一連の血管内皮・実質細胞障害である。その細胞障害過程のひとつとして、炎症性サイトカインであるIL-16やTNFα、それに引き続いて生じるNF-kBを介したapoptosissignalの関与が指摘されている。本実験では、摘出した臓器の灌流液中にantiapoptotic peptideを結合させたPTDを添加し、摘出臓器細胞内へ同peptideを導入することによって、虚血再灌流障害の軽減を目指した。PTDを用いた移植臓器に対する蛋白質導入は、ex vivoでの前処置であるためレシピエントへの影響がなく、理想的な方法である。このモデルは、手術手技・使用する器具など臨床現場での応用を想定したものであり、心停止ドナーからの膵腎移植の適応拡大に大きく寄与することができると思われる。
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