本研究ではWister系雄性ラットを(a)正常コントロール群、(b)軽症膵炎群;セルレイン膵炎モデル、(c)重症膵炎群;5%タウロコール酸膵炎モデル、(d)軽症膵炎+nafamostat mesilate(FUT)静注群、(e)軽症膵炎+heparin静注群、(f)重症膵1炎+FUT静注群、(g)重症膵炎+FUT動注群、(h)重症膵炎+heparin静注群に分類し、走査型電子顕微鏡を用いて膵微小血管の変化を観察した。また、上記モデルにおける膵組織および膵微小血管の組織学的検討を行った。1)軽症膵炎群では膵微小血管の障害(微小破綻、血管の狭小・途絶)が末梢の毛細血管領域に留まっていたが、重症膵炎群では血管障害が中枢側の血管へと波及しており、小葉構造が破壊されていた。2)軽症膵炎群ではFUTの静脈内投与により膵組織学的変化・微小血管障害の改善を認めたが、重症膵炎群では明らかな改善傾向を認めなかった。3)heparinの静脈内投与では軽症・重症膵炎群ともに膵組織学的変化・微小血管障害の改善傾向を認めた。4)重症膵炎群ではFUTの動脈内投与によって膵組織学的変化・膵微小血管障害の改善傾向を認めた。この効果はheparinの静脈内投与よりも明らかであった。以上、本研究では走査型電子顕微鏡を用いてラット急性膵炎モデルにおける膵微小血管障害を明らかにし、さらにこの血管障害に重症度による差を認めた。これまでに膵微小血管病変に着目して、膵炎の重症度による変化を観察した報告はなく、膵微小血管障害が末梢の毛細血管から中枢側に拡がることが明らかになった。また、本研究では、FUTおよびheparin投与によって膵微小血管障害が改善することを示したが、これは新しい知見であり、膵微小血管障害の発生に血液凝固が関与している可能性が示唆された。さらに、FUTは投与経路の違いによって効果に差があり、FUTの効果発現には膵組織内濃度が重要であると考えられた。本研究の結果は急性膵炎における膵壊死発生機序の解明に繋がるものであり、抗凝固薬を用いた新しい治療法の開発が期待される。
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