1. 急性膵炎の発症には、膵腺房細胞内におけるトリプシンの異所性活性化が原因であるとされてきた。しかし本来細胞内では活性化されにくい仕組みになっているはず(トリプシノーゲンとして存在している)のトリプシンがどのようなメカニズムで活性化されるのか、これまで明らかにされていなかった。われわれは膵臓内在性トリプシンインヒビターのノックアウトマウスの解析から、トリプシンの活性化とオートファジー(自食作用)が共存していることを見出し、オートファジーとトリプシンの活性化には何らかの関連があるのではないかと考え、条件的(膵腺房細胞)Atg5欠損マウスを作製し、実験を行った。このマウスは現在出生後12カ月齢まで観察を行っているが、生理的条件下では特に表現型は示さなかった。しかしこのマウスに急性膵炎を惹起する刺激を行うと、コントロールマウスに比較して膵炎に伴う腺房細胞障害が抑制された。さらにオートファジーによって腺房細胞が障害されるメカニズムを明らかにするために、腺房細胞を単離して、細胞内のトリプシノーゲンを活性化させる刺激を行ったところ、Atg5欠損腺房細胞ではトリプシノーゲンの活性化が抑制されることが判明した。膵臓腺房細胞内でトリプシノーゲンがトリプシンに活性化されるメカニズムを明らかにし、Journal of Cell Biologyにアクセプトされた。 2. PSTIの膵臓以外の臓器における機能を明らかにするために、まずPSTIの全身の局在を明らかにした。膵臓以外にも胎生期の脳、消化管、泌尿生殖器にも発現が確認され、トリプシンインヒビター以外にも多彩な機能を有していることが示唆された。この研究成果はHistochemistry and Cell Biologyにアクセプトされた。
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