18年度はEGFR遺伝子をはじめとするEGFR関連遺伝子を調べることでEGFRチロシンキナーゼ阻害剤であるゲフィチニブの効果を予測する因子の同定と、臨床検体において投与症例を選択するための検査法の確立を計画した。 肺癌症例でEGFR、HER2、K-ras遺伝子の変異・遺伝子コピー数、遺伝子多型を解析しゲフィチニブの臨床効果との関係を調べた。EGFR変異症例でゲフィチニブの臨床効果との強い相関を認めたが、欧米と異なりEGFR遺伝子増幅例、HER2遺伝子増幅例ではゲフィチニブの臨床効果との関連は見出せなかった。またEGFR遺伝子のポリモルフィズムとの関係も強い関係はないと考えられた。対照的にK-ras遺伝子変異がある肺癌ではゲフィチニブに対し抵抗性であった。本邦ではEGFR遺伝子変異を指標としてゲフィチニブを治療に使用することが妥当と思われた。この結果をサポート、応用した成果として胸水中の遊離DNA中のEGFR遺伝子変異を解析することでゲフィチニブの効果予測が可能であることを報告した。 ゲフィチニブに対する耐性の検討では耐性の原因変異であるT790M変異に対する高感度の検出系をMutant-enriched PCR法を用いて確立した。実際の肺癌検体でT790M変異の有無を調べたところ、マイナークローンとして存在するT790M変異は肺癌症例の約5%に存在し、T790M変異はマイナークローンとして存在した場合でもゲフィチニブに対する耐性の原因となりうることを報告した。この結果はゲフィチニブによる治療予定患者においてゲフィチニブに対する耐性出現が予測可能であることを示しており、T790M変異を事前に検出することが治療計画の一助となる可能性を示した。 以上、平成18年度は分子標的治療薬による肺癌の個別化治療の確立にっながる研究成果を報告した。さらなる研究の方向性も見えてきたと思われる。
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