19年度は分子異常と薬剤感受性の関係を、in vitro.in vivoにおいても評価するため、主に以下の研究を行った。 1.EGFR変異とウラシルテガフールによる肺癌術後補助化学療法の予後に関する研究:EGFR遺伝子変異がUFTによる肺腺癌術後補助療法の予後に及ぼす影響について検討した。EGFR変異を有する肺腺癌患者ではUFT投与群と非投与群間で有意差はなかったが、EGFR変異がない肺腺癌患者ではUFT投与群では非投与群と比較し有意に予後が良好であった。In vitroの検討では、UFTの主成分である5-Fluorouracilに対する感受性が、EGFR野生型の細胞株では、EGFR変異型の細胞株と比較し高く、実際の症例における結果をサポートするデータを得た。EGFR遺伝子変異が、肺腺癌に対するUFTも含めた術後補助化学療法剤の選択に際し、考慮されるべき因子であることを示した。 2.肺癌における術前導入化学療法におけるERCC1発現と効果予測に関する研究 術前導入療法におけるERCC1の意義を検討するため、縦隔鏡によりリンパ節転移が証明され、シスプラチンによる術前導入療法を行ったIII期肺癌の治療前転移リンパ節のERCCI蛋白発現を検討した。シスプラチン+CPT-11による術前化学療法の効果とERCC1蛋白発現低下が有意に相関しており、ERCC1発現の状態が術前化学療法薬剤選択の指標になる可能性を示した。 3.Focal adhesion kinase (FAK)とInsulin-like growth factor (IGFR)の阻害剤であるTAE226よる抗腫瘍効果に関する研究:肺癌細胞株PC-9 (EGFR exon19 欠失)、H1299 (EGFR 野生型)、H1975 (EGFR T790N+L858R変異)、A549 (K-ras変異型)、PC-9 ZD1839耐性株により、TAE226の腫瘍抑制効果を検討した。EGFR遺伝子変異を有する肺癌細胞株に対して、最もTAE226による増殖抑制効果を認めた。さらに、EGFR T790M耐性変異を持つH1975、PC-9 ZD1839耐性株に対しても、同程度の腫瘍抑制効果が認めた。
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