本研究は中胚葉由来のマイクログリアが神経外胚葉系細胞へ分化可能である我々の発見に基づき、その詳細な分化メカニズムをCre-loxPシステムを利用したトランスジェニックマウスを用い、個体レベルで明らかにすることを目指したものである。本年度は以下の2項目について検討した。 1:神経系前駆細胞集団への分化能を有するマクロファージ系細胞の個体レベルにおける探索 個体レベルでマイクログリア(あるいは同じ細胞系譜である血球系細胞)が神経外胚葉系細胞への分化能力を持ちうるか、ラット中大脳動脈一次閉塞モデルを作成し、マイクログリア系細胞の挙動を調べた。虚血中心部のマイクログリアそのものは予想外にもアポトーシスにより死に至ったが、興味深いことに末梢より血球系細胞が多数浸潤し、それらの細胞がオリゴデンドロサイト前駆細胞で発現が認められるマーカー分子(NG2)とマイクログリアマーカー(Iba1)の両方を発現していることを見いだした。この細胞浸潤には基底膜・細胞外基質を分解する酵素のヘパラナーゼが重要な役割を果たしていた。この細胞群を単離し培養したところ神経細胞等への分化が認められ、我々が以前マイクログリアを用いて報告した結果を強く裏付ける発見であった。 2:マイクログリア・マクロファージ特異的にCre酵素を発現するlba1-Creマウスの作製 Cre酵素をマイクログリア・マクロファージ特異的に発現させるためマイクログリア・マクロファージ特異的に発現する遺伝子Iba1のプロモーター直下にCre遺伝子をつないだIba1-Creベクターを構築した。このプラスミドをCOS7細胞とマクロファージ系細胞株THP-1細胞に発現させ、THP-1細胞特異的にCre酵素が発現することを確認した。現在C57BL/6とBDF1の受精卵(一細胞期)にIba1-Creベクターを顕微注入し、ファウンダーマウスを作成中である。 Iba1-Creトランスジェニックマウスを樹立したのち、Cre酵素が働いた細胞はGFPの緑色蛍光を発するレポーターマウスCAG-CAT-GFPマウス(大阪大学医学部・宮崎教授より供与)との交配によりマイクログリアの細胞系譜を検討する。
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