研究概要 |
BSHをリポソームに包埋することで、中性子捕捉療法用薬剤として硼素化合物包埋リポソームを作成した。これを用いて、ラット脳腫瘍モデルを用い、CED法により投薬を行い、組織中硼素濃度をICP発光分析法により計測した。 本年度は、リポソームの薬物動態が臨床画像により視認可能となるよう、ヨード造影剤をBSHとともに包埋し、その有効性・安全性を確認した。正常脳に対し同薬剤をCEDにより投薬したラットは、神経学的にも明らかな障害は出現せず、投薬時の全身麻酔の影響のみであった。薬剤そのものの硬素濃度は、BNCT用薬剤として十分量が包埋できており、またこれら薬剤は、通常の臨床CT装置にて十分に検出可能であった。 ラット脳腫瘍モデルへの投薬実験においては、投薬終了後、0,24,48,72時間の経過で、40,22,4,2μg/gであった。同様にトランスフェリン標的リポソームを投薬した場合には、48時間後まで38μg/gと高濃度の硼素が腫瘍組織に停滞し、正常脳との硼素濃度のコントラストは最大となった。また同薬剤の分布はCT上明瞭に描出され、投薬範囲が腫瘍をカバーできていることは容易に診断可能であった。 今回得られた結果から、リポソームによる薬剤到達が、血液脳関門の存在によって比較的不利と考えられる脳実質内に、CEDを用いて投薬する手技は、安全でありかつ十分な組織薬剤濃度を維持できる有効な手法であると思われた。 今回、本研究期間内に原子炉が臨時停止となり、中性子照射実験が完遂できていないが、中性子捕捉療法により十分な治療効果を発揮しうる新規約剤として有望である。
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