平成19年度も前年度に引き続き、温熱刺激を骨肉腫細胞に与える実験を継続した。自己分泌型細胞運動刺激因子(autocrine motility factor以下AMF)は細胞に対してストレスが加わると発現が増強することが多い。このため温熱刺激によりAMFの発現が上昇することが予想されたのだが、その発現は減弱した。これらの実験結果から骨肉腫細胞をコントロール群、メソトレキセート添加群、温熱刺激群に分けDNAマイクロアレイにて遺伝子の発現変化を比較し、温熱刺激に特異的と考えられる遺伝子をいくつか検出した。骨形成関連遺伝子の発現が認められ、これらの転写因子とAMFの関連が示唆された。次にRNA干渉を用いてAMFの発現が恒常的に減弱している細胞株を作製し、その形態・形質変化の観察、さらには発現遺伝子の解析を行い、AMFの発現減弱により間葉上皮転換が生じることが確認された。これらのことから温熱刺激により腫瘍細胞の間葉上皮転換が生じることが示唆された。さらにAMFの分解を阻害する因子としてPoly(ADP-Ribose)Polymerase Family-14(PARP14)を同定した。PARPl4はAMFに結合する因子として同定され、ユビキチンーライソゾーム経路を用いたAMFの分解を阻害することが示唆された。またPARPl4は正常細胞にも発現しているが腫瘍細胞ではその発現がより強く、腫瘍細胞のAMFの高発現に関わっていることが示唆された。本研究により同定されたAMFの結合パートナーのPARPl4をターゲットにすることにより腫瘍の転移に関わるAMFの発現・分泌を制御できることが期待される。
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