研究概要 |
ラットをウレタン麻酔下に脊髄腰膨大部から後根つきスライス標本を作成し、後角第II層細胞からホールセルパッチクランプ記録を行った。膜電位を-70mVに固定したときに見られる自発性興奮性シナプス後電流(spontaneous EPSC)、0mVに固定したときに見られる自発性抑制性シナプス後電流(spontaneous IPSC)、またテトロドトキシン投与下で見られるminiature EPSC(mEPSC), mIPSCを記録した。糖尿病モデルラットと生食を腹腔内投与したコントロール間でこれらの記録の振幅や頻度を解析した。静止膜電位は糖尿病ラットで浅くなる傾向が見られたが、有意な差は見られなかった。mIPSCの頻度は糖尿病ラットで減少する傾向が見られたが有意差はなく、振幅も不変であった。mEPSCの振幅は不変だが、頻度は糖尿病ラットで有意に増加した。つまり糖尿病ラットでは神経終末からの興奮性伝達物質の放出が増加し、脊髄後角の興奮性が高まっていることがわかった。近年、神経因性疼痛に有効であるとしてガバペンチンが臨床使用されているがその詳細な作用機序は解明されていない。膜電位を-70mV固定下に後根を吸引電極にて刺激したときに誘発され、介在ニューロンを介さないmonosynaptic evoked EPSCを記録し、ガバペンチンを潅流投与した。その結果コントロールでは不変だが、糖尿病ラットでは振幅が減少した。またコントロールでは変化なかったが、糖尿病ラットではガバペンチン投与でmEPSCの頻度が減少した。つまり、糖尿病ラットにおいてガバペンチンは一次求心性線維の神経終末からの神経伝達物質放出を抑制することがわかった。これがガバペンチンの鎮痛作用機序のひとつであると考えられ、糖尿病末梢神経傷害では一次求心性線維の終末にレセプターの発現など何らかの変化が生じていると推測された。
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