マイクログリアは一酸化窒素(NO)やサイトカイン等の産生を介し、脳損傷時のニューロン傷害と密接に関与する。脳保護作用を目的とした脳低温療法はこれらの産生を軽減させる可能性があるが、その機序には不明な点が多い。報告者は、今までにリポポリサッカライド(LPS)活性化マイクログリアからのNOやサイトカイン産生が低温や高温下で受ける影響について明らかにしてきたが、本物質は非生理的因子であり議論が多かった。そこで本年度の研究では、脳損傷時のニューロンやグリア細胞から遊離あるいは放出される内因性のマイクログリア活性化物質、アデノシン三リン酸(ATP)あるいはHigh Mobility Group Box(HMGB)-1を用い、マイクログリアの産生するNOやサイトカインが低温および高温培養下でどのように影響を受けるのか調べた。新生仔ラット(Wistar:1-3日齢)の大脳よりマイクログリアを単離し、ATPあるいはHMGB-1添加の下、33℃、37℃、39℃下で各々48時間培養した。培養上清中の炎症性因子(NO^<2->:NOの代謝産物)および抗炎症性因子(IL-10)産生量をそれぞれGriess法およびELISAで測定した。その結果、 ATP(1mM)はマイクログリアからのNOとIL-10産生を時間依存的に増加させたが、HMGB-1(1-10μg/ml)は影響しなかった。このATP刺激によるマイクログリアからのNO^<2->産生は、37℃に比べ、33℃では高値を示し、39℃では低値を示した。IL-10産生は、37℃に比べ、33℃では低値を示し、39℃では高値を示した。以上より、ATP活性化マイクログリアにおいて、1)低温(33℃)下ではNO産生は促進され、 IL-10産生は抑制されること、また、2)高温(39℃)下ではNO産生は抑制され、IL-10産生は増加すること、が判明した。これらの結果は、脳低温療法による脳保護作用の一機序にATP活性化マイクログリアからのNO増加とIL-10抑制が関与すること、また、高温下でのニューロン傷害増悪にはNO抑制とIL-10増加が関与することを示唆する。
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