人工呼吸を含む機械的伸展を肺に施すと、サイトカインを含む様々な炎症性メディエータが放出されることが以前から知られており、これらのサイトカインの中でIL-1βやTNF-αなどは、気道の粘膜上皮を覆うムチンの一種であるMUC2などの遺伝子を活性化し、粘液の産生を亢進することが判明してきた。粘液の産生自体は、外界からの異物や刺激に対し、物理的に上皮を覆って、生体を守るために必要な生体防御反応の一つと考えられるが、過剰な産生はガス交換を妨げ、血液の酸素化を悪化することにつながると思われる。また、ムチン自身が緑膿菌などの細菌のcolonizationに関与するという報告がある。本研究では、人工呼吸器で気道内圧を変化させることによる肺への機械的伸展が、気道におけるMUC2遺伝子の活性と気道粘膜の防御因子としてのHSP70の発現に与える影響を明らかにすることを目標としてきた。平成20年度では、引き続きこれまでと同様にpressure control ventilatorを用い、気道内圧の変化とMUC2の発現およびHSP70の発現の関係を検索した。気道内圧を上昇させると30cmH_2Oを上限としてHSP70の発現が呼吸細気管支に認められたが、MUC2に関しては恒常的にもある程度の発現があるため増加傾向はあるもののそれが人工呼吸によるものと断定できる有意な発現は今回の研究では認められなかった。 最近の研究では、機械的伸展による気道上皮細胞のムチン類の発現ではMUC2よりもMUC5ACの発現のほうがより関与しているという報告があるため、そういう意味ではこれからの課題として気道内圧の変化とMUC5ACとの関係を明らかにするほうが良いかもしれない。また、HSP70との関係も検討する必要があると思われた。
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