精子形成細胞は、精巣内に存在する小管、精細管の中で自己増殖をすると共にその一部は減数分裂を伴う分化段階に入り、精細管内の管壁側から内腔側へと移動しながら精子細胞へと分化する。これらの細胞群は、分化過程でその7割以上がアポトーシスを起こして死ぬことが知られているが、その意義はわかっていない。 研究代表者らはこれまでに、精子形成を助ける働きを持つ細胞のセルトリ細胞がアポトーシス精子形成細胞を貪食すること、これを阻害すると作られる精子数が減少することを示してきた。これらの知見より「精子形成細胞のアポトーシスが新たな精子形成を促す」と予想し、これを導く因子の同定を目標に実験を行ってきた。昨年度までにアポトーシス精子形成細胞を貪食したセルトリ細胞では蛋白質A(未発表データにつき公表せず)およびこれをコードする遺伝子の発現量が顕著に増加することを見出している。 同遺伝子のホモ欠損マウスは生まれないことが既に知られているので、本年度はセルトリ細胞特異的に目的の遺伝子を決失させる、いわゆるコンディショナルノックアウトマウスの作成を試みた。loxP配列に挟まれた配列は、配列特異的組換え酵素Creに切り取られる。この仕組みを利用するために、遺伝子Aの第一エキソンの両端にloxP配列を持たせたマウスを作成した。セルトリ細胞特異的に発現する遺伝子AMVのプロモーター領域およびその下流にcre遺伝子を持つ配列を挿入したトランスジェニックマウスと同マウスを交配し、生まれた動物の解析を行った。精巣組織切片を観察したところ、精細管内細胞分布、および精細管内のアポトーシス細胞存在程度には明白な違いは見られないことがわかった。しかし、同マウスのセルトリ細胞で確実に遺伝子Aが欠損している保障はない。これを明らかにした後に遺伝子Aの精子形成への関与の有無を再検証する予定である。
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