本研究はBPHの症状発現に主導的役割を演ずる炎症関連分子の解析を目的とし、ヒト組織を用いた実験とラッモデルを用いたin vivo実験から構成される。 1)ヒト前立腺肥大症(BPH)組織でのマーカー分子の発現変化と臨床パラメーターとの比較解析 有症候性BPH患者50例を対象とし、前立腺移行部切片におけるMacrophage inhibitory cytokine-1(MIC-1)遺伝子の発現レベルを定量的RT-PCR法で計測。MIC-1遺伝子発現の有無で2群に分け、IPSSや前立腺重量など9項目との関連を解析。 結果、手術施行時の年齢はMIC-1遺伝子発現低下群で低く、前立腺容積も大きい傾向を示した他、最大尿流率が有意に低下していることが確認された(p=0.31、0.21、0.01)。 MIC-1遺伝子のdown-regulationは、無症候性慢性炎症に伴う間質優位への前立腺組織の構造変化に関連し、Qmax低下を惹起している可能性が示唆された。 2)ラット前立腺における加齢変化と若年非細菌性前立腺炎(Y-NBP)モデルとの比較解析 13週齢Wistarラットを除睾後、17β-estradiolを30日間投与し、Y-NBPモデルを作成、13週齢ラット、10ヶ月齢ラットの前立腺を対照群として用いた。炎症性変化の内容や程度及び、腺-間質比率を評価すると同時にMIC-1遺伝子の発現レベルを定量的RT-PCR法で測定。 結果、腺-間質比率・炎症細胞浸潤は加齢とエストロゲン処理により増加傾向を示した。MIC-1遺伝子の発現レベルは加齢により低下、エストロゲン処理にて上昇が確認された(p=0.0093、0.0001)。 ホルモン環境の変化、加齢により、前立腺に炎症性変化・間質増生が惹起され、これらの一連の変化にMIC-1遺伝子の発現変化が密接に関連している可能性が示唆された。
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