妊娠時の抗酸化系機構の意義を明らかにするため抗酸化物質の1つであるチオレドキシン(以下TRX)に着目し、ヒトTRX-1を全身に過剰発見するトランスジェニックマウス(以下TRX-Tg)を用いその妊娠母獣・胎仔に対する実験を行った。 1.雄性野生型マウス(以下Wt)と雌性WtおよびTRX-Tgを交配し母獣、胎仔、胎盤につき解析を行った。その結果TRX-Tg群の妊娠時摂取カロリー量はWT群の約75%と低く体重当たりの摂取カロリー量としても有意に少ないことが明らかとなった。さらに妊娠第15日における胎盤重量はTRX-Tg群で有意に軽いにもかかわらず、胎仔重量は両群間で有意差を認めず、胎仔/胎盤重量比はTRX-Tg群で有意に大きいことが明らかとなった。すなわち、TRX-Tg群では摂取カロリーが少ないにもかかわらず胎仔/胎盤重量比が有意に大きかったことから、抗酸化系機構が胎児発育に影響を与えている可能性が示唆された 2.次に、胎児胎盤系における抗酸化系機構について解析する目的で、雄性WtおよびTRX-Tgと雌性Wtを交配し胎仔、胎盤につき解析を行った。その結果、妊娠第15日における胎盤重量は両群間で有意差を認めなかったが、胎仔重量はTRX-Tg群で有意に重く、胎児胎盤重量比が有意に大きいという結果を得た。さらに、妊娠時酸化ストレスの主な原因であると考えられている胎盤を、酸化ストレスマーカーの1つであり活性酸素によるDNAの損傷時に生じる8-hydroxy-2'-deoxygu-anosine(8-OHdG)によって免疫染色を行ったところTRX-Tg群ではWt群と比較し8-OHdG発現が減弱していることが明らかとなった。また、TRX-Tg群における胎盤では、胎児発育に関与するGLUT1のmRNA発現が増加していることを見いだし、胎盤におけるGLUT1の遺伝子発現を介しヒトTRX-1が胎仔発育に影響を与えている可能性が示唆された。 以上より、抗酸化系機構は胎児発育と密接に関係し、その機序として糖輸送機構が関与している可能性が示唆された。
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