研究概要 |
子宮内膜症の発症機序への免疫系の関与が注目されている。腹水細胞中で、腹腔macrophage (pMφ)やnatural ki11er (NK)細胞は、内膜症細胞処理に重要な細胞と考えられ、その機能解析は内膜症の発症・進展機序の解明に極めて重要である。特にpMφは貧食・抗原提示・cytokine産生といった腹腔内の異物処理に重要な役割を担い、内膜症細胞の処理に深く関わっていると推測される。 われわれは、pMφの抗原提示能に注目し、pMφ上の抗原提示に重要なHLA-DRやICAM-1の発現が、内膜症婦人で有意に低下していることを明らかにしてきた(Fertil Steril,2002,Fertil Steril,2003) pMφからT細胞への抗原提示の際には細胞膜の脂質二重層の盛り上がり(lipid raft:ラフト)上にHLA分子とICAM-1、B7(CD80/CD86)、CD40、CD58などの接着因子群(補助シグナル分子)が集積し「免疫シナプス」が形成されることが明らかとなった(Simons;1997)。ラフト形成により細胞間接着が強固となり、T細胞との間に免疫シナプスが形成され、その中心に位置するHLAの抗原情報が効率よく伝達される。内膜症婦人におけるpMφのICAM-1とHLA-DRの発現低下は免疫シナプス形成の低下を示唆している。今後pMφのラフト形成能を解析することは、内膜症pMφの機能、特に異物処理に関わる抗原提示能を直接的にかつ客観的に評価可能となり、その病態解明に重要と考えられる。 本研究では、1)flow cytometryで内膜症婦人のpMφ上の抗原提示に関わるHLA分子とその補助シグナル分子群の発現を非内膜症婦人と比較検討した。また、2)共焦点レーザー法でpMφの細胞膜上のラフトと、HLA-ABC/DRの局在を検討した。 その結果は、1)内膜症婦人ではHLA-ABCとHLA-DRに有意な発現低下を認めた。2)ラフト形成は、両群間に差を認めなかった。両群ともHLA-ABCは細胞膜に均一に、DRはラフト領域に局在していた。これは、内膜症婦人では、HLA発現が低下しており、特にラフト領域に局在するHLA-DRの発現低下は,内膜症pMφの抗原提示能の低下を示唆すると考えられた。今後はHLA発現を調節しているサイトカイン、内膜症抗原の同定を行う予定である。
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