研究概要 |
腹水細胞中で、腹腔macrophage(pMφ)やnatural killer(NK)細胞は、内膜症細胞処理に重要な細胞と考えられ、その機能解析は子宮内膜症の発症・進展機序の解明に極めて重要である。特にpMφは貪食・抗原提示・cytokine産生といった腹腔内の異物処理に重要な役割を担い、内膜症細胞の処理に深く関わっていると推測される。 pMφからT細胞への抗原提示の際には細胞膜の脂質二重層の盛り上がり(lipid raft:ラフト)上にHLA分子とICAM-1、CD40、CD58などの接着因子群(補助シグナル分子)が集積し「免疫シナプス」が形成されることが明らかとなった。ラフト形成により細胞間接着が強固となり、T細胞との間に免疫シナプスが形成され、その中心に位置するHLAの抗原情報が効率よく伝達される。内膜症婦人におけるpMφのICAM-1とHLA-DRの発現低下は免疫シナプス形成の低下を示唆している。今後pMφのラフト形成能を解析することは、内膜症のpMφの機能、特に異物処理に関わる抗原提示能が評価可能となり、その病態解明に重要と考えられる。 本研究では、1)flow cytometryで内膜症婦人のpMφ上の抗原提示に関わるHLA分子の発現を非内膜症婦人と比較検討した。2)共焦点レーザー法でpMφの細胞膜上のラフトと、HLA-ABC/DRの局在を検討した。3)ELISA法で、HLA発現を調節しているサイトカインであるIFN-γを測定した。4)摘出標本を免疫染色し内膜症抗原の同定を試みた。 その結果は、1)内膜症婦人では HLA-ABC と HLA-DR に有意な発現低下を認めた。2)ラフト形成は、両群間に差を認めなかった。両群とも HLA-ABC は細胞膜に均一に、DR はラフト領域に局在していた。3)腹腔内の IFN-γ濃度は内膜症婦人で有意に低下していた。これは、内膜症婦人では、HLA 発現が低下しており、特にラフト領域に局在する HLA-DR の発現低下は,内膜症pMφの抗原提示能が低下し、HLA 発現低下にIFN-γが関与していると考えられた。4)月経期の正常子宮内膜に HLA-G の発現を認め内膜症抗原の可能性が示唆された。今後は、免疫療法の開発へ展開する予定である。
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