研究概要 |
[目的]ヒト腹腔内にはマクロファージ(Mφ)が常在し、炎症、腫瘍の進展などに重要な役割を果たしており、特に上皮性卵巣がんの腹水内ではMφが増加し、腫瘍組織間に浸潤、集簇することは既に知られている。Mφは腫瘍周囲の環境に従って、腫瘍に対しては抑制的にも促進的にも作用するとされている。Mφは炎症性サイトカインにより誘導されるものはM1Mφ、抗炎症性サイト会員により誘導されるものはM2Mφとされるが、細胞増殖に関与するTumor associated MφはM2 Mφの性格を有していることが明らかになりつつある。これまでの当教室の研究において良性群に比較して境界悪性群および悪性群の卵巣腫瘍においてM2 Mφが増加し、腹水中のサイトカインに着目すると、卵巣癌腹水中でIL-6,-8,-10,MCP-1の他にGro,IL-15が検出されたこと、卵巣癌の腹水および腹水内より分離されたMφを培養した上清は不死化ヒト卵巣表層上皮細胞株の増殖能を高めることが分かっている。これらより卵巣癌における腹腔Mφの意義を解析する事が新たな臨床的展開の可能性を有しているものと考えられる。 [方法](1)卵巣癌症例およびコントロール群症例の腹水を採取し、腹水中のMφの数、ならびにそのMφの中に占めるM2 Mφの割合について、(2)卵巣癌腹水が不死化ヒト卵巣表層上皮細胞株と卵巣癌細胞株の増殖を促進するかどうかについて、(3)卵巣癌患者腹水中におけるM2 Mφのサイトカイン産生能について、検討した。 [成績]良性、卵巣癌症例から得られた腹水より、卵巣癌III、IV期(4例)では良性疾患(3例)や卵巣癌I期(1例)に比べて腹腔MφおよびM2 Mφの数が多く、割合も高かった。卵巣癌不死化ヒト卵巣表層上皮細胞株に腹水上清(良性4例、卵巣癌I期3例、卵巣癌III、IV期12例)を加えて増殖能を検討したところ、卵巣癌III、IV期症例において増殖能が有意に高かった。腹水上清(良性4例、卵巣癌I期3例、卵巣癌III、IV期12例)中のサイトカインは、IL6とIL10が卵巣癌III,IV期で高い発現がみられたが、IL12,IL15,LIFでは有意な差はみられなかった。進行期卵巣癌患者の腹水中ではMφ数が増加しており、その中でも腫瘍増殖に関与するM2 Mφの割合が高かった。以上より、M2 Mφが多く、割合が高い卵巣癌進行期患者の腹水中には、細胞増殖を促進する因子や腫瘍増殖に関与するサイトカインが発現していることが示唆された。
|