我々は、予後不良とされる婦人科進行癌に対して、VEGFを標的とした遺伝子治療の研究をスタートさせた。用いた遺伝子は、VEGF受容体-1の可溶型で、VEGFのアンタゴニストとして作用するsoluble Flt-1(sFlt-1)である。また、sFlt-1を生体内で長期にわたり発現させるための手段として、筋肉等の正常細胞にも遺伝子導入可能なアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを使用した。 本年度は、以下の成果が得られた。 1)sFlt-1発現AAVベクター(AAV-sFlt-1)の作製 AAV-sFlt-1、および、コントロールベクターのAAV-LacZを作製した。Iodixanolを使用した密度勾配超遠心法により精製し、ドットプロットハイブリダイゼーション法により力価を測定した。 2)卵巣癌腹膜播種モデルマウスに対する、AAV-sFlt-1の効果の検討 AAV-sFlt-1あるいはAAV-LacZをヌードマウス骨格筋に注射し、同時に、卵巣癌細胞株を腹腔内に接種した。その結果、腹膜播種がAAV-sFlt-1筋肉内投与群で有意に抑制された。なお、AAVベクターの血清型については、II型、V型、I型の順に効果を試したが、I型が最も強い腹膜播種抑制効果を発揮した。 3)sFlt-1の血管新生抑制作用以外の作用機序の検討 sFlt-1に、癌細胞の遊走抑制作用、浸潤抑制作用があるかどうかを各々、in vitro scratch wound healing assay、in vitro invasion assayにて行ったが、いずれもコントロールと差はなかった。 4)AAV-sFlt-1の有害事象の検討 AAV-sFlt-1あるいはAAV-LacZを筋肉内投与したヌードマウスの体重変化、創傷治癒過程に差はなかった。また、同マウスから採血し、血算、腎機能、肝機能、電解質を測定したが、これらも両群間に差がなかった。以上、検討した項目においては、AAV-sFlt-1の有害事象は認められなかった。
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