癌関連遺伝子活性化の分子機構の一つとして特定遺伝子の増幅現象が広く知られている。しかしながら卵巣癌の中でも特に予後不良であるといわれている卵巣明細胞腺癌に特異的な増幅遺伝子については一定の見解が得られていない。申請者らは現在までに卵巣明細胞腺癌における潜在的遺伝子増幅を網羅的に検索する目的で、CGH(Comparative genomic hybridization)法を用い、17q23.2領域に存在する2遺伝子、APPBP2とPPM1Dが明細胞腺癌の予後関連バイオマーカーになりうることを突き止めた。また同領域に座位するHNF-1βが明細胞腺癌特異的に高発現し、当該遺伝子をターゲットにした分子標的治療の可能性を指摘した。 さらに、近年開発され、少量のDNA検体で一塩基単位から染色体レベルまで幅広い領域のゲノム変化を多領域同時に効率良く解析可能な遺伝子検査法であるMLPA(Multiplex Ligation-dependent Probe Amplification)法を用いて、従来型のシークエンス等によっても検出困難であった卵巣癌遺伝子大領域欠失や重複の検出を試みた。本法にて遺伝子増幅が知られている72種類の癌関連遺伝子につきゲノムコピー数の多寡を測定した結果、全例で何らかのゲノムコピー数の変化を認めた。さらに本法を用いることにより、卵巣癌における一定の遺伝子増幅プロファイルの作製に成功した。以上の結果よりMLPA法によるゲノム増幅プロファイルの作製は、分子標的医療を含めた個別化治療導入に際して、重要な解析ツールとなりうる可能性を指摘した。
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