研究概要 |
子宮は妊娠・分娩時に著明な増大を示し,それが妊娠毎に繰り返されるという非常にユニークな雌性生殖器官である.その主な構成組織である子宮筋では妊娠時,細胞の肥大と増殖が起こっている.しかしこれまで増殖した子宮平滑筋細胞の由来に関しては明らかにされていない.近年様々な器官・組織に存在する固有の組織幹細胞が,それぞれの器官・組織の維持と再生を担っていることが明らかとなってきた.それ故組織の再生を繰り返す骨髄・腸管・骨格筋などと同様に子宮筋においても,組織幹細胞の存在が示唆される. これまでに子宮筋幹細胞の表面マーカーなどが明らかになっていない.そこで子宮筋幹細胞候補集団分離法として,様々な器官・組織に於いて組織幹細胞を分離するヘキスト33342染色を用いたSide Population (SP)法を選択した.特徴ある染色パターンの中で,両波長を殆ど発しない細胞集団SPは,高い組織幹細胞活性を示すことが報告されており,骨髄を含め骨格筋,皮膚など様々な器官・組織において組織幹細胞として機能している. 当研究では,子宮摘出患者の同意を得て正常子宮筋層を採取し,子宮筋SP (myometrial SP: myoSP)をFACSにて分離した. myoSPの多分化能について,骨・脂肪細胞への分化誘導をin vitroで行い,骨・脂肪細胞分化マーカー発現とALP活性・Oil red O染色をそれぞれ指標にして, myoSPが多分化能を持つことを明らかにした.また,重度免疫不全マウスへの移植実験を行ったところ, myoSPが子宮筋組織を再構築していた.さらに,移植後マウスを妊娠させたところ, myoSPによって再構築された子宮筋組織においてオキシトシン受容体の発現が認められた. 当研究により,子宮筋における組織幹細胞集団の存在が明らかにされた.また, myoSPは幹細胞の特性である多分化能および自己祖織構築能を有するのみならず,妊娠子宮の機能発現にも寄与する可能性が示された.
|