研究概要 |
母体血中の有核赤血球は、5x10^9細胞に1個程度しか存在しないとされ、その胎児細胞をロスなく回収することは無侵襲的な出生前診断には不可欠である。欧米では、大規模な臨床研究であるNlFTY studyが行われ、抗原抗体反応を利用した胎児細胞分離法の限界が示されたが、我々の研究は、従来の方法と全く違う発想に基づいた胎児細胞分離法であるレクチン法を用いていることが最大の特徴である。レクチン法を用いた有核赤血球分離法は、具体的には、1.095g/mLの高比重液を用いて単核球成分の分離を行う。この段階では、多くの赤血球の混入が起こる。しかし、有核赤血球が、白血球と赤血球の中間的な比重を持っていることから、ロスのない確実な有核赤血球回収には好条件である。この血球成分を、ガラクトースコートしたチャンバースライド上で、ガラクトースと特異的に結合するレクチンとともにインキュベーションすると、ガラクトースを高発現している赤血球系細胞がスライドグラス上にレクチンを介して結合する。このスライドグラスを洗浄して、スライドグラスに結合していない白血球を洗い流す。その後、染色して、形態的に有核赤血球を検索する。同定した有核赤血球は、micromanipulatorを用いて別のスライド上に移し、固定後、FISH解析を行う方法である。この方法で、55例の妊婦より末梢血を採取し、有核赤血球を検索したところ全例で有核赤血球を同定できた。正常の妊婦(平均妊娠15週)で、6mLあたり13.2細胞の有核赤血球を同定した。さらに、20例の症例でX, Y染色体特異的なプローブを用いてFISH診断を行ったところ、正確な胎児性別診断ができることがわかった。今後、21番染色体、18番染色体の数的異常の診断がXYと同様に可能かどうかの検討を羊水穿刺を行う症例を対象に行っており、来年度にかけて順次成果が出る予定である。
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